埼玉医科大学総合医療センター

高度救命救急センター

准教授 荒木 尚



 頭を打って救急外来を訪れる子どもさんやご両親に話を伺うと、「頭を打つ」機会は、自宅や学校の休み時間や体育の時間、登下校時など日常生活の様々な場面に潜んでいることが判ります。そのうえ、交通事故や転落など、不慮の出来事に遭遇する場合もある訳ですから、本来は、頭部外傷が起こらないよう発生予防に取り組むことが最も重要なことです。しかし不幸にも頭部外傷を受けた場合、外傷性脳損傷は小児の死亡原因や後遺症罹患率の原因として最多であるため、適切な初期対応を行うことも極めて重要です。今回は、小児の頭部外傷の特徴と、もし現場に遭遇した時いかに対応すべきか、その注意点について述べたいと思います。


【頭頚部の特徴】

 子どもの頭・頸部は成長発達の段階にあり、年齢に応じた進化があります。子どもの頭皮(真皮・表皮)は血流に富み、小さな挫創でも相当量の出血となり得ます。このため、頭部からの出血を見たらまずタオルなどで圧迫止血を行って下さい。

 小児は、体躯において頭部が占める比率が大きく「頭でっかち」なので、頭部打撲を起こしやすい傾向にあります。幼い年齢であるほど頭部の重量は体幹よりも重く、弱い首の筋肉では十分に支えきれません。頭部は振り子のように動きやすく、外力による影響つまり回転加速度が生じやすいことが分かります。乳幼児はより頭を打撲しますが、年齢を経ると顔面への外傷が増えます。これは、成長と共に副鼻腔が急速に発達し外力が顔面で吸収されやすくなるからです。小児の頸部筋群は発達過程にあり、重い頭部を支えるには筋肉の強さ・容量とも不十分です。受傷後、首を強く痛がる場合はMRI 等の画像を行うまで病変を見落とす場合もあり注意が必要です。


【観察すべき点・注意する点】

① 一般の状態はどうか?

 意識はあるか、呼吸をしているか、顔色はどうかなど、状態を観察します。問いかけに応じる場合は余裕がありますが、意識なく、呼びかけや刺激に対して目を開けない場合は救急車を呼びます。救急隊が到着するまでの間、体を横向けにし(回復体位)吐いたもので気道が塞がれてしまわないよう、顔は少し上向けにします。(図)痙攣が起きた場合、舌を噛み切ることはまずありません。「口の中に物を入れ」ず、気道を確保します。


            


回復体位(東京消防庁HP より引用)


② 頭部の状態はどうか?

 頭のどの部分にたんこぶ(皮下血腫)があるか観察します。後頭部の打撲の際に意識障害が見られやすいようです。側頭部の打撲も意識障害を起こしやすいと言われています。出血があれば、大まかにでも圧迫を開始して救急隊の到着を待つか、圧迫して受診します。耳や鼻の穴からの出血も観察しておきます。頭蓋底骨折の疑いがあります。


③ 首を痛がるかどうか?

 頭部打撲の場合同時に頚椎捻挫を起こすことがあります。頸部の運動時や、後頸部に自発痛を持つ場合、また圧痛があるときは、安易に首を動かさないようにします。



【処置の実際】

 頭部打撲により意識を失った子どもを見た時に、最も気を付けることは次の2点です。

① 気道を塞がない(嘔吐物を口から掻き出す、横向けにして呼吸を観察する等)

② 痙攣を起こしても、呼吸を確認し、冷静に救急要請する( 口の中にものを押し込まない、1分以下で自然に止まることが殆どなので、落ち着く)



 意識のない子どもへの基本的な救急処置としては、

① まず呼びかけを行い、人を呼ぶ(反応がなければ意識障害があると判断)

② 呼吸をしているかどうか観察する

③ 可能ならば、手首で脈をふれるか(橈骨動脈や上腕動脈)どうか確認する

④ 回復体位を取り、同時に頭部を観察する

⑤ 誰かが来てくれたら、その人に救急要請を頼む

⑥出血があれば圧迫する



 以上を行います。頭部以外にも変形などがないかどうか、を確認しておくといいでしょう。

 意識障害の疑いがなく、普通に応対が出来る場合でも数時間後に気分が悪くなり、嘔吐や痙攣をすることもありますので、注意が必要です。


【医療機関への搬送を必ず行う場合とは、】

現在意識障害がある(あるいは強く疑う)

長さに関わらず意識消失があった

2メートル以上からの墜落(特に頭部から墜落した場合)

複数回の嘔吐

頭痛・行動異常

麻痺などの神経症状がある場合


 日常生活での小児の頭部外傷は衝突、転倒、転落など比較的弱いエネルギーによって起こるため、95%以上は軽症といわれます。反面、症状は多彩であり、受診した方が良いかCTを撮った方が良いか、判断な簡単ではありません。観察にも不安を伴います。型にはまった評価では判断を誤るもとにもなります。事故の状況や、判断が難しい場合、観察の際に不安感がぬぐえない場合には、迷わず救急要請をするか、近隣の医療機関を受診することをお勧めします。「大丈夫かしら」という不安の感覚を以て観察する事、「受診した方が良い」と頭をよぎる場合は「救急受診」だと思います。私どものセンターでは、子どもの頭部外傷のご相談やご依頼をお断りすることはありません。どうぞ安心してご連絡ください。

 小児の頭部外傷が重症化する多くの場合、気道閉塞や吐物の窒息による低酸素、低血圧、心停止が合併しています。これらは簡単な処置により適切に回避することが出来ます。厚生労働省「救急蘇生法の指針2015市民用」がありますので一度ご覧下さい。皆様の一手が子どもの命を救います。

http://www.fdma.go.jp/neuter/topics/kyukyu_sosei/sisin2015.pdf