防衛医科大学校 脳神経外科学講座

教授  太郎

 

脳動脈瘤は破裂してくも膜下出血を来す前に未破裂脳動脈瘤として発見されることがあります。未破裂脳脈瘤は直径30㎜程度の小さな鍵穴開頭術でも治療することが可能となっています。


 脳動脈瘤は文字どうり頭の中の動脈に出来るコブです。これが破裂するとくも膜下出血を来します。くも膜下出血は現在でも、約50%の患者は死亡するか脳に障害が残る怖い病気です。最近ではMRIなどの検査を受けると偶然に脳動脈瘤が破裂する前に見つかることが多くなっています。これを未破裂脳動脈瘤と言います。未破裂動脈瘤は見つかったらすぐに破裂する訳ではありません。日本人の未破裂脳動脈瘤の年間破裂率は0・64%であり、5㎜以上のものでも1・1%です。年齢や脳動脈瘤の大きさや形や出来た部位などを考慮して、専門医と良く相談して治療すべきか経過観察すべきかを慎重に決める必要があります。それは未破裂脳動脈瘤の治療自体が患者さんに障害を来す危険を伴うからです。現在、未破裂脳動脈瘤の治療法には開頭術を行って動脈瘤を直に見ながら金属製のクリップを用いて動脈瘤をつぶす手術(これをクリッピング術と言います)と、カテーテルを挿入して頭の血管まで運んで脳動脈瘤の中に金属製のコイルなどを挿入して治療する方法(これを血管内治療と言います)があります。どちらの治療法にも長所と短所があります。クリッピング術は長期的な治癒が見込めますが、頭に開頭術を施す必要があります。血管内治療では開頭術は必要ないのですが、治療した動脈瘤が再発する危険があります。どちらの治療法を選択するかは、経験豊富な専門医と良く相談したうえで決める必要があります。


 我々はクリッピング術の治療効果の確実性という長所を生かしながら、従来の開頭に代わる鍵穴と呼ばれる小さな開頭術でクリッピング術を行う方法を10年ほど前から開発してまいりました。これを鍵穴クリッピング術と言います。


鍵穴クリッピング術の方法


 全身麻酔が必要ですが、この方法では髪の毛を剃毛する必要はありません。眉毛のすぐ上やこめかみに約4㎝ の皮膚切開をおいて、25㎜ 程度の大きさの鍵穴開頭術を施します。顕微鏡の他に内視鏡などを使って脳動脈瘤を探し、クリップを使って瘤を閉鎖します。通常の開頭術では術後10日ほどの入院が必要ですか、鍵穴手術では問題なければ3日程度で退院が可能であり、外来で抜糸を行います(図)。



図説(鍵穴クリッピング術)

上段:術前画像、脳動脈瘤が赤で示されている。

下段:術後画像、クリップ(緑)で動脈瘤が消えている。


鍵穴クリッピング術の利点と問題点

 この方法では通常の開頭術のように大きく頭皮を切開する必要はありませんが、顔に切開を置く必要があります。傷には個人差がありますが、約半年後にはかなりきれいに治ります。通常の開頭術に認められることがある開口障害や痛みもありません。現在までに260例の鍵穴クリッピング術を施行しておりますが、死亡例はなく障害発生率は1%です。これは我々の施設では動脈瘤の大きさが10㎜ 以下の小さな動脈瘤を治療対象にしているので障害発生率が低いと考えられます。なお、現在までに再発例はなくクリッピング術の治療永続性の利点が十分に生かされております。鍵穴クリッピング術はドイツのPerneckzy 先生らが開発した方法であり、ヨーロッパや北米では一般化しつつある方法ですが、日本では鍵穴手術は一般化しておりません。小さな鍵穴開頭からのクリッピング術では安全性に難点があると考えられているからです。しかしながら、手術の対象を小さな単純な動脈瘤に限り、手術前にコンピューターを用いたシミュレーションを十分に行い、さらに手術中には内視鏡などの支援下に熟練者が手術を行えば、通常開頭術に劣らない手術結果を得られることも事実です。


 未破裂脳動脈瘤が発見された患者さんがうつ気分を訴えることは稀ではありません。私は鍵穴クリッピング術を行った患者さんのうつ気分が術後に改善することも証明してまいりました。通常開頭術や血管内手術の他に第3の治療方法として鍵穴クリッピング術も動脈瘤によっては考慮して良いと思います。