東埼玉総合病院付属清地クリニック

脳神経外科

馬場 元毅



 前回から脳神経の話をしています。
 (12種類の脳神経の全体図は「ぶれいん」128号P8をご覧になるか、当ホームページサイドメニューにある「脳神経のしくみと働き」をご覧になって下さい ※下図のバナーをクリック)


【Ⅱ.視神経 ②】

 前号でお話した視覚路と視野の話はお分かりになりましたか。特に右側の視野からの光が左側の有線野に至り、左側からの光が右側の有線野に終わるという交叉現象のからくりが理解できた方は大したものです。今回は視覚路の障害により起こる視野障害についてお話します。


【視覚路の障害】

 視覚路は頭の最前部にある眼球から大脳を前後に縦断して、最後部にある、視覚中枢である有線野に到達するのですから、いろいろな脳の病気に冒されやすいことは容易に理解できますね。


【A. 眼球(網膜)の障害】

 まず、視覚路のスタート点である網膜の病気からお話しましょう。
 皆さんは進行性の難病である「網膜色素変性症[もうまくしきそへんせいしょう]」という病名を聞いたことがあると思いますが、これは網膜の中にある2種類の視細胞のうち、杆体細胞[かんたいさいぼう]が侵されるために徐々に視力を失い、ついには失明してしまう病気です。(図1 A)



図1視覚路: 視覚路の障害部と視野狭窄


【B. 視神経部の障害】

 次いで、視神経、すなわち網膜から視神経交叉(視交叉)までの病変としては比較的まれですが、重症頭部外傷で合併することがある視神経管骨折[ししんけいかんこっせつ]があります。視神経は眼球から出たらすぐに視神経管という骨の孔を通って頭蓋内に至りますが、前頭部や前額部(おでこ)を激しく打撲したりすると、前頭部の底部の骨が骨折を起こすことがあり(前頭蓋底骨折[ぜんずがいていこっせつ])、この時、視神経管にも骨折(ヒビ)が及んで視神経を損傷すると視力障害をきたします(図1 B)。
 一側の網膜の病変(A)や、一側の視神経の病変(B)では障害側だけの視野障害(単眼盲)が起こります。


C. 視神経交叉部の障害

 次に視神経が左右で交叉する部、すなわち視神経交叉[ししんけいこうさ](視交叉[しこうさ])とよばれる場所での障害( 図1 C )ですが、この部の代表的な疾患は下垂体腫瘍[か すいたいしゅよう]というものです( 図2)。下垂体は頭蓋のほぼ中央部にあるトルコ鞍[あん]という骨のくぼみに収まっていて重要なホルモンを分泌する組織ですが、視交叉部は下垂体の真上にあるため、下垂体に発生した腫瘍が増大すると視交叉部が下から圧迫され、両眼の外側( 耳側) の視野が欠損する特殊な視野障害が起こります。これは両耳側半盲[りょうじそくはんもう]とよばれます。


 

D. 視索、視放線部、有線野の障害

 視交叉部から後頭葉の有線野[ゆうせんや](視覚中枢)までの神経路(視索[しさく]、視放線[しほうせん])が障害されると右目も左目も障害部の反対側の視野が半分だけ欠損します。これは同名半盲[どうめいはんもう]とよばれます。例えば左視索が障害されると、右目も左目も右半分の視野が欠損してしまいます。この場合、右同名半盲とよばれます(図1 D)。この病態は頭頂葉後部や後頭葉の広範な脳梗塞、脳内出血、悪性脳腫瘍(グリオーマ)などで観察されます。 意外なことに、視野が狭くなっても気がつかないことがあります。たとえば右同名半盲の場合、右側から突然飛び出してきた人や車に気付かず、ぶつかってしまったり、右足下[あしもと]の障害物に気付かずにつまずいたりすることがあります。


 次号は第Ⅲ脳神経(動眼神経)について述べる予定です。