東埼玉総合病院付属清地クリニック

脳神経外科

馬場 元毅


 前号では手足や顔面への運動指令の伝わるルート(神経伝導路)についてお話しました。今回は運動麻痺についてお話いたします。

【運動麻痺のタイプ】

 前号の復習ですが、大脳の運動野から全身に運動指令が伝わるルートは大きく分けて手足へのルートと顔面へのルートがあること、前者は脊髄を通って手足の筋肉に至ること、後者は脊髄まで行かずにその手前の脳幹から顔面の筋肉に至ること、さらに二つのルート共に左右のルートが交叉してそれぞれ反対側の筋肉に運動指令が伝えられることをお話しました。特に“交叉”という現象はこれから述べる運動麻痺の現れ方に重要な影響を及ぼしています。どのように重要なのか、ということをこれから詳しく説明いたします。

 運動麻痺とは手足や顔を動かす筋肉が随意的(思いのまま)に動かせなくなることです。具体的には脳梗塞や脳出血などの脳血管障害、脳腫瘍、頭部外傷などで手足や体幹、顔面の随意的な運動ができなくなる状態です。

 運動麻痺はその病気が身体のどこに起こるかで4つのタイプに分けられます。(図1:運動麻痺のタイプ)


片麻痺[かたまひ]
(半身麻痺)
顔面を含んで一側半身の麻痺が現れるものです。
一般に大脳の脳血管障害が原因で起こります。
特に大脳の内包という場所が侵された時に顕著に現れます(ぶれいん123号P8参照)。
この麻痺の特徴は病変と反対側の顔、舌、手、足の筋肉が動かなくなることです。
これは破壊された場所より末梢側で神経伝導路が交叉するためです。(図1-A)
単麻痺[たんまひ]
一側の手、または足が単独で麻痺するものです。
原因は交通事故や転落事故で一側の肩や腕の付け根、あるいは股関節部や鼠径部[そけいぶ]を強打した時にそれぞれ一側の手、または足に麻痺が現れます。
その他、一側の頚髄神経根の良性腫瘍でも見られます。
この麻痺の特徴は病変側と麻痺側が同じ側だということです。
これは損傷された神経伝導路がすでに交叉し終わっているためです。(図1-B)
さらに単麻痺は大脳皮質運動野の損傷(この部に局在する脳腫瘍、小さな脳出血、陥没骨折など)でも起こります。
この場合、麻痺は病巣側と反対側に出現します。
同じ単麻痺でも病巣の部位で麻痺の起こる側が違ってくることがあるのですね。
対麻痺[ついまひ]
両側の下肢の運動麻痺のことです。
原因は胸髄以下の脊髄腫瘍、脊髄梗塞などです。
特徴は便や尿を失禁してしまう膀胱直腸障害を合併することが多いことです。(図1-C)
四肢麻痺[ししまひ]
両側の上肢、下肢が全て麻痺してしまうものです。
原因は交通事故や(水泳の)飛び込み事故、転落事故などによる上位頚髄損傷が一般的ですが、まれに下部脳幹の脳血管障害でも見られます。
特徴はしばしば呼吸筋麻痺、膀胱直腸障害を合併することです。(図1-D)

【運動麻痺のタイプ毎の徴候】

 次いで運動ニューロン(ブレイン123号P8参照)の損傷部位の違いでみられる運動麻痺の徴候について説明します。まず運動ニューロンのうち、大脳から脊髄の中継点までの一次ニューロンが損傷された時は筋肉の緊張が高まった痙性麻痺[けいせいまひ]を呈します。この場合、上肢は屈曲し、下肢は伸展した状態になります。例えば患者さんの屈曲した手を他の人が伸ばそうとすると、初めはすごく硬く、抵抗を感じるのですが、あるところから急に抵抗が取れてストンと伸びることが観察されます。この状態は上述の片麻痺、対麻痺(下肢のみ)、四肢麻痺で見られます。一方、中継点(脊髄前角細胞)より末梢側のニューロン(二次ニューロン)の損傷では筋肉の緊張が低下した弛緩性麻痺[しかんせいまひ]を呈します。この場合、麻痺した上肢、または下肢はそれぞれデレデレ麻痺(ちょっと変な表現ですが、分かって下さい)で、上肢は持ち上げることが難しく、下肢は補助装具なしでは立つことが困難です。この徴候は脊髄神経損傷による単麻痺の時の特徴です。