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手術支援ナビゲーターの開発と-「機器開発について思うこと」 

自治医科大学 脳神経外科
教授 渡辺 英寿

手術支援ナビゲータは日本発の技術です。今ではすっかり定着したナビゲータも開発の過程には様々な難関がありました。開発に携わった著者が発明の経緯や開発にまつわる経験をお話しします。

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     手術支援ナビゲーション装置は、脳外科の手術中に、いまどこにいるのか、目的の腫瘍はどこにあるのかなどをMRIやCTの上に示して、術者が道に迷わないように支援する装置です。頭の内部は脳が詰まっていますので全く見通しがきかない上、脳に少しでも余分な傷をつければ、予期しない合併症を作ってしまうという厳しい環境にあります。脳外科医はまっすぐに迷うことなく正確に目標に到達しなければなりません。このときカーナビゲーションのように、これを支えるのが手術支援ナビゲータです。この技術はCTやMRIの上に成り立つもので、CT黎明期に私が初めて開発しました。

     1975年に日本で始めてのCTが導入されました。CTは脳外科に全く新しい診断レベルを提供することとなりました。CTによって脳内の腫瘍などの3次元的な位置が正確にわかるようになりました。するとこの情報を手術の時にうまく使って正確に腫瘍を探り当てることができたら、と思うのは当然の流れです。というのも、ナビゲータが開発される前は病変がCTで見えていても、適当な目印がないため、脳表から鈍針を差し込んで指先の感触で当たったかどうかを探るような状況でした。腫瘍の脇をかすめて更に奥に行ってしまったなどという事は決して稀ではありませんでした。

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     となると、術中に自分が頭蓋内のどこにいるのかを術中に計測しなければならない。これがナビゲータ開発の最初の動機でした。現在iPadで有名なApple社がAppleⅡという名機を作り一世を風靡していたころです。それに付属していたのが、“2次元デジタイザー”なるもので、2関節のシンプルなアーム式でXY座標を取り込んで図形をなぞって入力することができていました。そこで私が考えたのは、よし!この関節数を増やして3次元にしよう! 秋葉原で材料を買い込んで手作りで最初のアーム式のナビゲーターを作りました(図)。次いで工学部の応援を受けて、頭部座標からCT座標に変換するプログラムが出来ました。これをベーシック言語で記載し、アームの先端の座標をCT画像の上に表示するというものでした。これを実際の手術で試し、ナビゲータという名称で報告したのが世界初の論文となりました。大筋は現在使われているナビゲータとほぼ同じです。現在のものは、表示する画像が精細な3次元立体図であったり、光学式の3次元計測装置を用いて使用感や精度が向上していたりするのが違うだけです。

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     私がナビゲータの開発を通して学んだことから機器開発を夢見る若いドクターたちに以下の様なメッセージをお伝えしたいと思います。

     まず開発は待ってくれない。常に前進していないとすぐに他社に追い越されます。

     次に、敵は必ず自分の肩から前に飛び出します。生半な特許ではすぐにかわされてしまいます。このように機器開発は常に前進する意欲を持っていなければならないのです。 では着想はどこから来るのでしょうか?やはりまずは現場からの問題意識。これを要素に分解して解決を図るのです。解決策を見出すためには、周囲への技術的な関心を常に怠らないこと。工学部の友人は必須です。そこには日の目を見ずに眠っている技術が多数あります。最後に着想を得たら、それをある程度のところまで具体化する努力をおしまないこと。言葉だけでは他の分野の人には正確にはわかってもらえません。曲がりなりにも一応は機能する試作機を作って見せなければ協力者は得られないと考えるべきです。最近はプログラム言語も取っ付き易いものが増え、3Dプリンターの普及で試作が容易にできるようになったので、若い研究者はぜひこれらを自分のものにし、開発力をつけていただきたいと思います。

     現在は残念ながら欧米のメーカーに主導権を握られてしまったナビゲータですが、もとは日本から発信した技術です。今後も日本初の素晴らしいナビゲータが次々と世に問われる日を夢見ています。